大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

横浜地方裁判所 昭和57年(ワ)2426号 判決 1984年7月19日

原告

日立建設株式会社

ほか一名

被告

三浦善宏

ほか三名

主文

1  被告三浦善宏及び同砂川敏明は各自原告日立建設株式会社に対し金四九万八二四〇円及びそのうち金四四万八二四〇円に対する昭和五七年五月一七日から、そのうち金五万円に対するこの判決言渡しの日からそれぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告三浦善宏及び同砂川敏明は各自原告中島健一に対し金二五〇万一九九〇円及びそのうち金二二五万一九九〇円に対する昭和五七年五月一七日から、そのうち金二五万円に対するこの判決言渡しの日からそれぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  原告両名の被告三浦善宏及び同砂川敏明に対するその余の請求及び被告三浦啓子及び同三浦孝夫に対する請求を棄却する。

4  訴訟費用中原告日立建設株式会社と被告三浦善宏及び同砂川敏明との間に生じた分はこれを九分し、その一を同被告らの、その余を同原告の各負担とし、原告中島健一と右各被告との間に生じた分はこれを六分し、その五を右各被告の、その余を同原告の各負担とし、原告らと被告三浦啓子及び同三浦孝夫との間に生じた分は全部原告らの負担とする。

5  この判決は主文1の項及び2の項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは各自、原告日立建設株式会社に対し金四七九万九六五〇円と、原告中島健一に対し金三一五万一九九〇円と、これらに対する昭和五七年五月一七日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁(各被告とも)

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  交通事故の発生

昭和五七年五月一六日午前二時ころ、被告三浦善宏(以下被告善宏という。)は、被告砂川敏明(以下被告敏明という。)所有の普通乗用自動車(相模五八ち五九〇六)に同被告を同乗させ、座間市入谷四丁目一八六二番地付近路上を進行中、運転を誤り、同市入谷四丁目一八五九番地二所在の建物(鉄骨造亜鉛メツキ鋼板葺地下一階付二階建店舗)一階部分に衝突した。

2  責任の原因

(一) 被告善宏は、無免許で、かつ飲酒のうえ運転し、運転操作を誤つたから過失がある。

(二) 被告敏明は、被告善宏が無免許であり、かつ飲酒していることを知りながら、自己所有車の運転をまかせたものであるから、共同不法行為者として責任がある。

(三)(1) 訴外亡三浦和夫は、事故当時未成年であつた被告善宏の親権者として、民法第七一四条により監督者としての責任がある。

(2) 訴外亡三浦和夫は、昭和五八年一月一〇日死亡し、被告三浦啓子、同三浦孝夫及び同三浦善宏が同人を相続した。

3  原告日立建設株式会社の損害

(一) 原告日立建設株式会社(以下原告会社という。)は、座間市入谷一八五九番地二に本店を定め、前記建物を原告中島健一(以下原告中島という。)から借り受け、不動産の売買、賃貸借、土木建築業等を主たる業務として営業している。

(二) 広告用チラシ、印刷物等代金 九四万一六五〇円

事故日をはさむ三日間を売出日とする折込広告に要した費用が、事故後の休業で全く無駄になつた。

(三) 休業損害 二〇一万円

七日間休業したために右額の損害を蒙つた。

(四) 応接セツト、テーブル、照明具等 七四万八〇〇〇円

事故により家具等が破壊され、買替え等のために右額の金員を要した。

(五) 慰藉料 五〇万円

原告会社は、予告なく無断で休業し、顧客に迷惑をかけ信用を失つた。その精神的苦痛を慰藉するのに少なくとも五〇万円を要する。

(六) 弁護士費用 六〇万円

被告らは、原告会社の支払請求に任意に応じないので、原告会社は、本訴の追行を原告代理人に委任し、第一審判決言渡しの日に報酬六〇万円を支払うことを約した。

(七) 合計 四七九万九六五〇円

4  原告中島健一の損害

(一) 原告中島は、前記建物を所有し、原告会社に事務所として賃貸している。

(二) 修理代 二二五万一九九〇円

破壊された建物の修理に右額を要した。

(三) 慰藉料 五〇万円

原告中島は、建物を破壊され精神的苦痛を受けた。

これを慰藉するのに少なくとも五〇万円を要する。

(四) 弁護士費用 四〇万円

被告らは、原告中島の損害賠償の請求に任意に応じないので、原告中島は本訴の追行を原告代理人に委任し、第一審判決言渡の日に報酬四〇万円を支払うと約した。

(五) 合計 三一五万一九九〇円

5  結論

よつて原告会社は被告らに対し各自四七九万九六五〇円及びこれに対する本件事故の翌日である昭和五七年五月一七日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求め、原告中島は被告らに対し各自金三一五万一九九〇円及びこれに対する本件事故の翌日である昭和五七年五月一七日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求の原因に対する被告三浦ら三名の認否

1  請求の原因1の事実は認める。

2  請求の原因2(一)、2(三)(2)の各事実は認め、同2(三)(1)の主張は争う。

3  請求の原因3、4の各事実は知らない。

三  請求の原因に対する被告敏明の認否

1  請求の原因1の事実は認める。

2  請求の原因2(二)の事実は否認する。

3  請求の原因3、4の各事実は知らない。

四  被告三浦ら三名の抗弁

訴外亡三浦和夫は、昭和五七年九月四日、原告会社に対し、被告三浦らの損害賠償として七〇万円を支払つた。

五  抗弁に対する認否

抗弁事実は認める。

第三証拠

当裁判所が取調べた証拠は、本件記録中の書証目録、証人等目録に記載のとおりであるから、ここに引用する。

理由

一  請求の原因1の事実は当事者間に争いがない。

二1  請求の原因2(一)の事実は当事者間に争いがない。

2  いずれも成立に争いがない甲第六号証、第九号証、第一〇号証、第一五号証、第一六号証によれば、被告敏明は、被告善宏と飲酒後、被告善宏が自動車運転免許を有しないのを知りながら、所有車のキーを同被告に預け、自分は助手席に乗り、直後に被告善宏がこれを始動させ、ステアリング操作を完全に誤り、請求の原因1の項の建物に衝突させた事実が認められ、この事実によれば、被告敏明は、被告善宏の無免許酒酔い運転を幇助したこと、それに因つて衝突事故が生じたことが認められる。甲第一五号証、第一六号証中には、被告敏明は、被告善宏が、自動車を実際に発進させるとは考えなかつたとする部分があるが信用し難く、他に右の認定を左右する証拠はない。

3  甲第九号証によれば、被告善宏は、昭和三九年一月二九日生れであり、中学校卒業後就職し、事故当時は日給月給制で一日八〇〇〇円の収入を得ていたことが認められ、右事実によれば、事故当時被告善宏は責任能力を有していたと認められる。被告善宏が責任無能力であることを前提にする原告らの主張は理由がない。また成立に争いがない甲第一号証によれば、被告善宏は、昭和五五年二月一七日警視庁丸ノ内警察署管内で、自動二輪車の無免許運転を理由として検挙されたことが認められるが、右の事実と本件事故の経緯とから、訴外亡三浦和夫が、親権者として、その親権に従う被告善宏の指導監督を怠り、因つて本件事故に至つた事実を推認し得ず、他に訴外亡三浦和夫の責任を認めるに足る事実を見出さない。

三  原告会社の損害について判断する。

1  原告会社の営業について

原告会社代表者尋問の結果及び原告中島本人尋問の結果によれば請求の原因3(一)の事実が認められる。

2  広告費用について

成立に争いがない甲第一九号証、原告会社代表者尋問の結果及び弁論の全趣旨により成立を認める甲第二一ないし第二六号証によれば、原告会社は、昭和五七年五月一五日、一六日両日に、八四万一六五〇円をかけて、土、日、月を売出日とする不動産売出の広告(チラシ)をしたこと、同年五月四日には、住宅情報誌に一〇万円の料金を支払つて広告を掲載したこと、事故に遭つた同年五月一六日から一週間営業をしなかつたこと、広告された不動産は二、三箇月後に売却できたことが認められるが、右の事実によつては、広告が無意義に帰したとはいえない。広告の機能は、売買物件を広く知らせるにとどまらず、店の名を知らせる点にもあろうが、この点を措くとしても、広告にかかる物件が程なく売れたということであれば一応目的は達したと考えられるし、通常行うべき広告の外に更に別の広告を要して売却が可能となつたというのであれば、経費増を考え損害と認めることもできようが、原告会社代表者の供述中には、物件が売れなければ何度でも広告を出すとする部分はあるものの、余分に広告費が要つたことを述べないし、他にこれを認めるに足る証拠もない。そうとすると、広告に要した費用相当の損害があつたとする原告会社の主張は採用できない。

3  休業損害について

(一)  成立に争いがない甲第七号証、第一一号証、第一九号証、証人佐藤貞雄の証言、原告会社代表者尋問の結果及びこれにより真正に成立したと認める甲第二〇号証によれば次の事実が認められ、これに反する証拠はない。

(1) 原告会社は、昭和五七年五月二四日、事故により営業を三日間休まざるを得なかつたから、一日当り二八万円の収入を失つたとして、計八四万円の損害を他の損害と共に警察に届け出た。既にこの時には、事故により蒙つた建物破損の修理に要する費用の見積りが、原告会社の下請をしていた者によつて詳細に作成されていた。

(2) 原告会社は、被告善宏及び訴外亡三浦和夫、被告敏明及びその両親に宛て、昭和五七年六月三日損害賠償の請求書を送り、休業損害については、七日間休業したから計一六一万円の損害を蒙り、他に、七日間の金利負担四〇万円の損害を蒙つたと主張した。

(3) 原告会社の、昭和五六年二月一日から昭和五七年一月三一日の期間を対象とする損益計算書上は、売上高五億一七九七万九〇〇〇円、売上原価四億三三六三万五七七五円、販売費及び一般管理費六三九九万四九六六円、営業利益二〇三四万八二五九円、営業外費用として、支払利息・割引料二一〇〇万七〇六〇円その他が計上され、経常利益として四〇二万〇二二二円を算出している。(右の売上高から売上原価を減じた八四三四万三二二五円を三六五で除し、これに七を乗じたものが前(二)の一六一万円の、右の支払利息・割引料を三六五で除し、これに七を乗じたものが前(2)の四〇万円の各主張となつていることが計算上窺われる。)

(4) 原告会社の収益は景気の影響を受け、昭和五七年二月一日から始まる年度の成績は前年を下まわつた。

(5) 原告会社店舗はスチールシヤツターが凹損し、広告板、引戸が破損し、ガラス破片が事務室内に散乱、応接椅子、テーブルの足が折れる被害を受け、店舗修理は、配色の統一などのため結局広範囲に及び、工事に一週間を要した。

(二)  右の事実によつて、原告会社の受けた損害を評価するのに、不動産業を営む原告会社の収支が景気の影響を受けるというのであれば、単年度収支を基礎に逸失利益を計算するのは、根拠の危い方法であること、しかし、電話注文、相談、現地案内など、通常不動産業者の行う事務が全く頓座したとは認め難いものの、一応一週間の休業は事故のためにやむを得ないものと認められるから、そこに或程度の損害を生じたと見るのが相当であり、他に資料がないから、営業利益二〇三四万八二五九円を三六五で除し、七を乗じた三九万〇二四〇円の損害が発生したと認めるのが相当である。

支払利息・割引料の日割計算による七日分を算出すると四〇万円余の値となるが、右の費用は、事故のために特に増加したものではないから損害とは認められない。

原告会社代表者尋問中には、売上高の二割を利益と見て、その日割計算による七日分が損害であるとする部分があるが、根拠に乏しく採用できない。

他に右の判断を左右するに足る証拠はない。

4  応接セツト等について

甲第一一号証、第一九号証、原告会社代表者尋問の結果及び弁論の全趣旨により真正に成立したものと認める甲第二八号証の一、二、三によれば、事故により原告会社事務室内の応接椅子、テーブル等が破損し、その修理、買替えに七四万八〇〇〇円を要したことが認められる。

5  慰藉料について

原告会社は、慰藉料を請求するが、法人が精神的苦痛を感ずることはあり得ず、これを信用毀損の意味であると解するにしても、第三者に帰因する交通事故のために暫時休業を余儀なくされたからといつて社会的信用が低下することは考え難い。その他原告会社に金銭賠償を要する非財産的損害或いは無形の損害が生じたことを認めるに足る証拠はない。

6  弁済について

原告会社が七〇万円の損害賠償金の支払いを得たことは当事者間に争いがない。

7  弁護士費用について

被告らが損害の賠償を完全にしないため、原告会社は本訴を提起せざるを得ず、その追行を原告代理人に委任したことは、原告会社代表者尋問の結果及び弁論の全趣旨により明らかであり、事案の内容、認容額等の事情を考慮し、五万円を以て本件事故と相当因果関係にある損害と認める(もつとも、報酬支払時期について、第一審判決言渡時とする約束であつたことは、原告会社が自認するところであるから、遅延損害金について、事故の翌日からこれを求めることは許されない。)。

四  原告中島の損害について判断する。

1  修理代について

証人佐藤貞雄の証言及びこれにより真正に成立したものと認める甲第二七号証、原告中島本人尋問の結果によれば、事故により、原告中島が所有する請求の原因1記載の建物一階部分が破損し、その修理に二二五万一九九〇円を要したことが認められ、これを覆えすに足る証拠はない。

2  慰藉料について

原告中島が、建物破損部分の修理代金相当の賠償を得てなお填補されない精神的損害を蒙つたことを認めるに足る証拠はない。

3  弁護士費用について

被告らが損害賠償の要求に応ぜず、原告中島は本訴を提起せざるを得ず、その追行を原告代理人に委任したことは、原告中島本人尋問の結果及び弁論の全趣旨により明らかであり、事案の内容、認容額等の事情を考慮し、二五万円を以て本件事故と相当因果関係にある損害と認める(もつとも、報酬支払時期について、第一審判決言渡時とする約束であつたことは、原告中島が自認するところであるから、遅延損害金について、事故の翌日からこれを求めることは許されない。)。

五  結論

以上によれば、原告会社の請求は、被告善宏及び同敏明に対し、各自四九万八二四〇円及びそのうち金四四万八二四〇円に対する不法行為の日の後の日である昭和五七年五月一七日から、そのうち金五万円に対する不法行為の日の後の日であるこの判決言渡しの日からそれぞれ支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるから認容し、右両被告に対するその余の請求及び、その余の被告らに対する請求は理由がないから棄却する。

また、原告中島の請求は、被告善宏及び同敏明に対し、二五〇万一九九〇円及びそのうち金二二五万一九九〇円に対する不法行為の日の後の日である昭和五七年五月一七日から、そのうち金二五万円に対する不法行為の日の後の日であるこの判決言渡しの日からそれぞれ支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるから認容し、右両被告に対するその余の請求及びその余の被告らに対する請求は理由がないから棄却する。

よつて、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条、仮執行の宣言について同法第一九六条の各規定を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 曽我大三郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例